久しぶりに市の図書館に行きました。
近所には憩いの場が図書館くらいしかないので会館早々おじいちゃんおばあちゃんたちがたくさんいました。(←といっても大して人口もいないのでまったく密状態ではありませんw)そして今日も図書館は平和です。
今回の図書館訪問。本命は高村薫先生の『 李歐』だったのですが残念ながらありませんでいた。なのでかわりに同作家さんの他の作品を借りてきたのですがね……これがまた面白かったです!完全に管理人の好みでした!
高村薫先生『黄金を抱いて飛べ』新潮社になります!
銀行にある6トンもの金塊を盗もうと試みる男たち。実行に至るまでの計画、特に機械系のディテールに圧倒されました!
そして盗みに魅せられた彼らの人間ドラマ。仲間あり、絆あり、愛あり、涙あり。そして死…。
主人公の過去にも関係するキリスト教的考えもとても印象的でした。
機械系が好きな方、キリスト教的考えに興味のある方、また男たちの友情を越えた熱い人間ドラマ(というよりも愛)が好きな方におすすめです!
これが高村先生のデビュー作ってやばいです!
なんか昭和のいい匂いがしました。
あらすじ
銀行本店の地下深く眠る6トンの金塊を奪取せよ! 大阪の街でしたたかに生きる6人の男たちが企んだ、大胆不敵な金塊強奪計画。ハイテクを駆使した鉄壁の防御システムは、果して突破可能か? 変電所が炎に包まれ、制御室は爆破され、世紀の奪取作戦の火蓋が切って落とされた。圧倒的な迫力と正確無比なディテイルで絶賛を浴びた著者のデビュー作。日本推理サスペンス大賞受賞。(引用amazon)
映画化もしてます
この作品は妻夫木聡さん主演で映画化しているそうです!YouTubeの予告編でおおまかな作品の雰囲気はつかめると思います!👇️
www.youtube.com
おすすめポイント!
盗みに魅せられた、個性豊かな6人の男たち
この物語には盗みに魅せられる6人の男たちが登場します。彼らがみんな個性豊かで一人一人が本当に際立っているのです。彼らの魅力を紹介します!
主人公
幸田…裏社会とのパイプがある配送系の仕事をしている若い男。大学在学中から北川と盗み的なことを繰り返している。幼いころのトラウマあり
👆️主にこの人目線で語られます。彼は「人間のいない土地」に憧れている人間に無関心そうな男です。でもなんだかんだすごく人間を見ていますw
この無機質な男、後に出てくる春樹やモモと関わることで本当の自分が出てくるのですがね、あぁもう最高!物語に出てくるこういう一見無機質そうな男ってだいたい何かありますよね。
なぜ彼は盗むのか。そして家族が関係する過去のトラウマと向き合い、失ったと思われた彼のサンクチュアリ(聖域)を見つけるのです(;´Д⊂)
仲間たち
北川…幸田の友人。金塊盗みの発起人。妻と幼い子供あり。29歳
👆️ちなみに家族には泥棒家業のことは秘密にしてます。
北川はだいたい冷静です。いや、心のなかでは冷静じゃないのかもしれないのですが対応が大人なのです。まとめ役でもあり、ことのなり行きを見守るような男です(たぶん)。そして拾うものは拾って、捨てるものはきっぱり切り捨てる男。この覚悟と潔さ!また彼は幸田と供に盗みを繰り返していて幸田とは長い付き合いになります。私の好きな腐れ縁です(笑)
モモ…元北の工作員。爆弾を作れる
👆️元北の工作員って設定が興味深いですよね。なので常に命を狙われています。
主人公の幸田は人間観察が得意で人の顔の特徴などを事細かに記憶しているのですが、面白いことにモモにいたっては違うのです。はじめは「のっぺらぼう」と書かれていて特徴がないのです。でも一緒に時を過ごすにつれて顔がはっきりしてきます。本当はよく笑う、笑顔がすてきな人なのです…。本当に…。
春樹…北山の年の離れた弟で18歳。高校中退後は幸田と同じ職場で働いてる。
👆️まだ十代です。十代なんです。だから若者特有?のまっすぐさというか怖いもの知らずさというのがあるのです。まっすぐなのは汚れがなくて美しい。でも恐怖でもあります。重大なリスクを背負います。高いビルの間に張られた細いロープをピンとした背筋で渡っているような…そんな男です。(←??イメージです)
野田…色男。伊達男。機械に詳しいのでこの計画に呼ばれた
👆️頭から爪先までおしゃれに気を遣う野田。関西出身の彼は見事なトークを繰り広げます。それでまたちょっとチャラい印象で女の子が大好きな……でも実は、普段はスーツに身を包むビシバシサラリーマンなのです!このギャップいいねぇ。
ジイチャン…エレベーターに詳しいジイチャン。放火で捕まっていたらしい
👆️手足がひょろっと長いジイチャン。年齢のせいなのか、いつも落ち着いているジイチャン。幸田の中ではかなり印象的な人物です。ジイチャンは幸田の過去を語るうえでは超重要人物ですよ!!
ディテール描写が素晴らしい
詳細な描写はおそらくこの作品の特筆すべき点でしょう。犯行に至るまでの綿密な計画、そして侵入を試みる建物、エレベーターの構造など。参考書かいってレベルです。ものすごいです。
そして特に群を抜いてすごいのが機械について。金塊盗みをするにあたり爆弾が必要になるのですがこの爆弾の作り方ですね、もう教科書レベルですね。私は機械系まったくの知識ゼロなので、初めて聞く機械のパーツ?だらけで正直爆弾作りについてはよく分かりませんでした(汗)
でも精密機械とか好きな方は読んでいて楽しいと思いました!すごくイメージしやすいと思います!
この機械系のディテール、知識なし人間の私は正直ないほうが読みやすいとは思いました。でも特に爆弾の詳細はこの作品においてはあった方がいいのかなとも感じました。なぜならこの爆弾を命がけで作ったのはモモであり、この爆弾はモモの命と同等だと思うからです。そしてそれは同時に幸田の命だとも個人的に思っています。(←読んでいただくと分かると思います💦)だから爆弾におけるディテールは心情描写の必要性と匹敵すると個人的に思っています。
爆弾は驚くほどきっちり正確に爆発するのです。これはモモです。そして幸田です。それは愛です。読むと泣けてきます( ノД`)…
なぜか懐かしい。漂う昭和の良い香り
この物語の舞台は昭和です。おそらく80年代のはじめくらいとかかな、とも思います。
なので歌手の名前などは、懐かしいワードだなぁと感じる方もいると思います!
携帯もパソコンもないですから強盗計画の地図などももちろん全て手書きですよね。小さな部屋でみんなで書いてるシーンが目に浮かびます。
なんか良い匂いでした。この物語の舞台の年代は管理人、経験していません。
なので絶対に知らないはずなのですが、どういうわけか懐かしいような……脳内のセピア色の映像とともに、つんと鼻に残る昭和の良い匂いがしました。(←??)
秒針の音まで聞こえきそう。緊迫のあのシーン
大規模な盗みをするにあたり大泥棒が戦わなければならない物はなんでしょうか。
それは「時間」だと思います!(←盗んだことないので分かりませんがw)
物語のクライマックスはもちろん彼らが6トンの金塊を盗むシーンです。ここの面白いところは、強盗決行時には時間が正確に本文に書かれていてほぼ1分単位で起こっていることが分かるのです!
(おそらく)時計とにらめっこの強盗シーン。1分の狂いが命取りです。この緊迫感が非常によく伝わってきます。まるで秒針の音まで聞こえてきそうです…(汗)
それは愛。それは命。男たちの濃厚な人間ドラマ
ここに出てくる6人の男たちはただの強盗仲間ではありません。彼らの背景には濃厚な人間ドラマがあります。確執、情、愛など…。これが魅力です!
例えば北川と幸田の関係。昔から泥棒家業の仲間でもあった彼らの関係は不思議です。お互い相手を干渉しすぎず、でも離れず。妙な信頼関係で結ばれています。切っても切れない2人は「見守る」って表現が近いかな…?
腐れ縁という言葉の響きが好物な私は好きです、こういう関係。
そしてジイチャンと幸田。放火の全科があるジイチャンは、幸田の過去のトラウマに超関係する人物だったのです!はっきりとは書かれていないのですが、幼い頃の幸田は"Theオトナの事情"に振り回され、さらにはそれが原因で物理的にも心理的にも聖域だった彼の「サンクチュアリ(聖域)」を失っていたのです。この過去に関係する、幸田とジイチャンの関係がクライマックスであかされます!
ジイチャンの確執は最後までありましたね。このラストは泣きたいんだけど泣けないような…複雑な感情になりました!
キリスト教の精神的な描写が楽しめます!
そして個人的最大級に語りたいのは①春樹と幸田、②幸田とモモ の関係です。彼らの間には「恋や愛」があります。
次の章でこの2つについてじっくり語らせていただきたいと思います!👇️
でもネタバレしちゃうので、ネタバレ厳禁!の方は注意です!
個人的ここ好き!な一節
ここからはネタバレ注意です!!
1つ前の章で書いた①と②について、個人的に好きな一節とともに語らせていただきます!男性同士の愛が好きな方おすすめです。
以下よこしまな腐女子が書いていますので…あまりblに詳しくない方は(´・ω・`)?な表現があるかもしれません…すみません…。
①春樹と幸田
この2人は私的に…「どこまでもまっすぐな若い春樹を無償の愛的に幸田が包み込む」的な印象があります。
計画の発起人北川の年の離れた弟、春樹はおそらく初っぱなから幸田に惚れてます。
そして若さゆえに怖いものを知らず(たぶん)な春樹を、年の功のおかげか幸田は受け入れます。ええ。まっすぐな愛も受け入れます!
個人的に決定的シーンだと思っているところをご紹介します👇️
「幸田さん、俺は今日からガキをやめる。あんたが目を離せないワルになるよ」
「今でもワルのくせに」
「まだまださ」
え…やばくないですか…(;^_^Aここ私は事実上春樹の告白の場面だと思ってます(笑)あとで完全に幸田は受け入れたわい。
やっぱり幸田が「受け入れる」という表現が近いと感じるんですよね…。微妙なニュアンスが難しいですが…(汗)
ネタバレになりますが春樹は強盗実行前に命を落とします(おそらく)。その後の幸田の態度というか反応からして、春樹の幸田に対する気持ちの方が確実に重かったんじゃないかなと思いました。たぶん春樹は幸田のためだけにワルになりたかったんじゃないでしょうか…。でも幸田が罪に手を染める理由は他の人のためだったんじゃないかな…(;´Д⊂)
ちなみに私は春樹×幸田で想像してます。
②幸田とモモ
実はこの組み合わせは北川公認です(笑)①で春樹と幸田について語りましたが、それ以上にお互いのベクトルが同じ方を向いていると思いました。
モモが犯した重大な事件を知った幸田。そして幸田の過去のトラウマを知ったモモ。2人はお互いの弱みを知ったうえでそれを咀嚼しまくって消化しきれています(おそらく)。
幸田のモモに対するメッセージで私が好きな言葉です。
「そうだ、モモさん。俺はあんたと、神の話がしたいと思う。あんたとは、心の話がしたいと思う‥‥‥。」
☝幸田は幼い頃に「聖域」をなくしています。なので幸田の言う「神の話」は、いままで人に触れさせなかった彼のぽっかり空いた穴を満たすことができる唯一のことであり、それができるのはモモだけってことなのではないでしょうか。個人的にそう信じてます(笑)
ネタバレを言ってしまうと、モモは爆弾を作り上げて決行直前に亡くなります。これは彼が亡くなったあと、そして盗みを成功させたあとの幸田セリフです。
モモが作った爆弾が正確に爆発するシーンでは涙が出てきました。幸田にとってモモが作った爆弾はもはやモモだよ…。
実際ド直球に恋愛感情だと分かるシーンはないので、北山が言った一言でようやく「え!この2人ってくっついてたの!」と気がつく方もいらっしゃるのではないでしょうか。でもbl好きな方なら読み飛ばせないシーンがたくさんあります!
ちなみに私は幸田×モモです。
①と②の比較。体の描写の有無について
北山公認なのは②の幸田とモモです。彼らがデキてたのは確実です。
なのですが、面白いことに体に触れる描写があるのは①春樹と幸田だけなんですよね!
①は複数回にわたり春樹が幸田の体に触れるシーンがあります。極め付きには幸田の服の中に手をいれ…お触りします(ニヤニヤ)
一方の②はこれと言えるものがなく、強いて言うなら幸田がモモを家に誘った先が怪しいくらいでしょうか。まあ絶対何か起こったと思いますが(笑)
この差はなんなんだろうと考えたところ、②は本当に心が通っているから体の描写がなかった、描く必要性がなかったんじゃないかな、って思いました。
正直萌えシーンが多いのは①です。なので恋を楽しむなら①の春樹と幸田。愛を堪能するなら②の幸田とモモだと個人的に思いました。
無自覚モテまくりの幸田、本当に罪深い男だよ…w
さいごに
『黄金を抱いて飛べ』おすすめポイントのまとめ!
◯個性豊かなキャラクター!
◯ディテールが素晴らしい。特に機械系!
◯懐かしい。昭和の良い香り!
◯腐れ縁や確執。男たちの人間ドラマ!
◯散りばめられたキリスト教的表現!
◯bl好きさんおすすめ!
題名にもしたのですが、男たちはいったいなぜ盗みに魅せられたのでしょうか。登場人物それぞれ理由は違うと思いますし、読み手によっても理由は違うと思います。
でも私は、春樹がワルになろうとしていた理由は幸田が好きだったからなのだとしか思えません…。幸田が欲しかったから彼に近づきたかったのではないでしょうか。
そして私が考える幸田が盗みに魅せられた理由。1つ目は昔失った「聖域」の穴を埋めるため。もう1つは義務感。元工作員のモモと心も体も繋がるには、彼がいたところまで落ちなければならないという義務感かなぁと。要するにジイチャンとモモのためです。
主人公の幸田はいっけん人間嫌いな男です。でも本当の彼は誰よりも人間が好きで、いろんな人から愛される人なんだと思います。
腐れ縁の北川が彼におく信頼、心底彼に惚れこんでいた春樹、絶対に心が通じ合えたであろうモモ、最後まで家族を愛し儚く散ったジイチャン……(野田はなぞです)
こんなに人から愛されるなんて…そして無自覚モテ男で……やっぱり幸田は罪深い男です。自分を愛した何人もに先立たれる悲しい人ですが、彼が受けたこの愛は幸せだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
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